赤鉄鉱 hematite Fe2O3  六方晶系  [戻る
コランダムやチタン鉄鉱と同構造。
ごく薄い部分や微粒子では深紅の透過光が見られるが,たいていは,光を透さず,反射光で観察する必要がある。

反射偏光顕微鏡での性質)

形態/自形は6角板状で,その断面は短冊状。他形粒状のことも多い。

反射色/青灰色

反射多色性/普通(灰色〜青灰色)

異方性/強い

反射率(λ=590nm)/約25%

ビッカース硬度(kgf/mm2)/739〜1114硬度が高く,平滑な研磨面を得るには時間がかかる。

内部反射/暗紅色(細粒状集合体のものは顕著に認められる)

赤鉄鉱は組成変化に乏しい。広域変成岩では (1 0 -1 1)を双晶面とする集片双晶をなすことも多く,特に異方性の観察ではっきりする。

産状

火山岩や結晶片岩に副成分鉱物としてよく見られる。また,熱水変質鉱物として変質岩に時々見られる。
※なお,深成岩は酸素に乏しい地下深部のマグマの固結物なので,赤鉄鉱は初生鉱物としては生成しない。

火山岩では地表近くの酸素に富む条件でできるため,3価の鉄を主とする赤鉄鉱が副成分鉱物としてしばしば見られ,特に空気に触れつつマグマが冷却した溶岩流の表面付近に多い。時にルチルやシュードブルッカイト(Fe2TiO5)を伴う。不規則微粒状で,板状結晶の断面が短冊状に見える場合もある。

結晶片岩では源岩の種類によらず頻繁に出現し,不規則粒状のほか,片理に沿った板状の自形〜半自形の断面が短冊状に見える場合も多い。しばしば(1 0 -1 1)を双晶面とする集片双晶をなすことがあり,それは異方性の観察ではっきりする。500〜600℃の高温ではチタン鉄鉱と固溶体を作り,温度低下でチタン鉄鉱を離溶し,特に角閃石片岩中のものはチタン鉄鉱の微細な離溶ラメラを多く含んでいることが少なくない。
※片麻岩・エクロジャイト・グラニュライトなどのおよそ700℃以上の高温でできた変成岩には,よほどfO2が高くないと赤鉄鉱は含まれない。

熱水変質岩では深紅色の内部反射を示す不規則集合体や細脈状で見られ,褐鉄鉱との区別が難しい場合もある。なお,酸性の強度の熱水変質作用(ろう石化作用など)を受けた岩石では時に自形薄板状結晶の細長い短冊状の断面が見られ,それが放射状に集合していることもある。パイロフィライト・明礬石・ダイアスポア・酸化チタン鉱物などと共生する。




赤鉄鉱は苦鉄質岩や堆積岩起源の各種の結晶片岩にしばしば含まれ,板状の自形をなすことが多く,その断面が短冊状に見え,わずかに青味を帯びた灰色の反射色を示し,片理に沿って配列し,クロスニコルでは強い異方性がある。
画像ではわかりにくいがしばしば磁鉄鉱を伴い,磁鉄鉱は反射色がやや褐色がかり,クロスニコルで異方性がないので区別は容易である。





角閃石片岩中の赤鉄鉱(Hm)の集片双晶 愛媛県肉淵/クロスニコル

結晶片岩では赤鉄鉱は(1 0 -1 1)を双晶面とする集片双晶をなすことがある。それは反射多色性や,特に異方性の観察ではっきりする。写真のものは数μmオーダーで反復して双晶をなしているのが,異方性の観察で明暗の直線の縞として見えている。
Hm:赤鉄鉱,Im:チタン鉄鉱



角閃石片岩に含まれる赤鉄鉱(Hm:明灰)中のチタン鉄鉱(暗灰)の離溶組織 愛媛県肉淵/平行ニコル


約500℃でできた三波川変成帯の角閃石片岩中のもので,苦鉄質岩起源の結晶片岩には赤鉄鉱と共生してしばしばチタン鉄鉱が出現する。視野の中央〜右を占める赤鉄鉱中に,細かい紐状に見えるチタン鉄鉱のやや暗色の離溶ラメラが無数にある((0001)の1方向に並ぶ)。
一方,視野の左や上にある離溶ラメラではない大きなチタン鉄鉱(Im)には赤鉄鉱の離溶ラメラを含んでおらず,この生成温度ではチタン鉄鉱にはFe3+が固溶しなかったことがわかる。このことから赤鉄鉱(Fe2O3)−チタン鉄鉱(FeTiO3)の固溶系列には非対称ソルバスが存在することが考えられる。